オリジナル短編小説「聖夜とうちわ」
帰り道が繁華街であることを、最も恨む季節がやってきた。
この寒いのに、街はイルミネーションでキラキラ。
しつこいほどあちこちで響くクリスマスソング。
「あ〜あ…」
実久(みく)は耳をふさいで足早に歩いた。
どうしてこんなに幸せそうな奴らがたくさんいるんだろう。
「あいつと来る予定だったのに…」
フラれたばかりの身には、あまりに厳しい。
さっさと帰って缶チューハイでも飲んで寝るんだ。
そう思ったときだった。
「わあっ!見て見てェ!」
明らかに猫なで声で近くの女が、上を指差してはしゃいだ。
もちろん、その横ではきちんとイケメンが微笑んでいる。
不覚にも、実久はつられて顔を上げた。
「…雪、スか」
聖夜にふさわしい、ふわふわの白い、雪。
ぼーっと空を仰ぐ実久の顔に舞い降りては、溶けた。
――あいつと過ごすクリスマスに、一度もホワイトクリスマスなんて、なかったのに。
顔に溶けた雪の水滴に、別の水滴が混じりそうで、実久はふるふると首をふった。
ずるりと鼻ですすって、ごくりと飲み込んだ。
「…んん?」
鼻の通りが良くなって、気づいた。
なんだか、とってもいいニオイがする。
実久はきょろきょろ、辺りを見回した。
「ヘイいらっしゃい!」
焼き鳥屋だった。
クリスマスの繁華街は、お祭り騒ぎ。
クリスマスの雰囲気ぶち壊しなんて、怖くない。
人の集まるところ、出店は立ち並ぶのだ。
「ウチのは格別だよ!」
こんな聖夜にうちわをバタバタはたいているおじさんが、今の実久にはなんだかとっても、輝いて見えた。
笑顔に白い歯がキラリ、映える。
「じゃあ、全種類一本ずつ」
「ほいきたぁ!」
当初の予定より、ちょっと、缶チューハイが美味しいかも知れない。
今年の聖夜はそんなもんでいっか、ぼんやり実久は、思った。
ミクシィ「オリジナル小説を書こう!」コミュ
2006年12月第3週お題「雪」「クリスマス」「鼻」。これ以降書けてません。。